作品の依って立つ場所

映画「母と暮せば」観ました。
山田洋次監督最新作。
まだ公開まもないので、ネタバレしないよう…いや、無理かもしれんが。

広島を描いた井上ひさしの「父と暮せば」へのオマージュ。
私自身、芝居でも映画でも何度も見てるし、自主公演に関わったこともあるので、
どうしても意識して観てしまいますが、この作品への敬意が溢れてました。

吉永小百合さん、ちゃんと芝居を見た事なかったけどすごいな。
二宮和也さんも、いいな。
そして、他のキャスティングも、渋い!素晴らしかった。

井上ひさしさんが、言葉に依って立つ作品づくりをしているのに対し、
山田洋次さんはやっぱり映像に依って立つ。
善し悪しではなく、作品って自分の立つ場が、如実に表れるのだなと感じた。

私はどうしても想像力を働かせたい、と思ってしまうので、
全部映像で語られるのには抵抗がある。
山田洋次さん大好きだけど、
今回あの映像ファンタジーには違和感があり、
設定がファンタジーなら映像はリアルであってほしかったな、私は。
そして「物語」で魅せるというよりは、役者で、芝居で、魅せる作品。
エピソードを繫ぐのではなく、大きな骨格が見える作品が私は好きなので、ちょっと物足りず。

とはいえ、今、この時代でなければ語れない切実な監督としての生の言葉が映画に織り込まれ、
哲学と思想を持った俳優がそれを演じていることに、やっぱり泣かされました。
こんなに時が経っても描き尽くされる事のない戦争、原爆。
日本人はこのテーマならみんなハッピーエンドになり得ないことを知っている
悲しみありきの物語。
そこに今だからこそ向かい合おうとする製作チームの強い思いは伝わりました。

映画も映画館で観ないとな、と思える質量でもあり、
どうか公開中に観てほしい。
そして縁があればどうかどうか、井上ひさしの「父と暮せば」も何かしらのかたちで観てほしいと切に思うのでありました。