この仲間は裏切れない。「ぞうれっしゃがやってきた」を聴いて

元来感激屋で超泣き虫な私が、舞台を観てなかなか泣けなくなった。
いろいろ観る度に、舞台に立つ人の素が見えてしまったり、演出が気になったり、脚本に疑問を持ったり、「ん?」と思う所で止まってしまい、それを吹き飛ばして圧倒するような舞台には、なかなか出会えない。
舞台が大好きで、それを仕事にしたが故の悲しみ(笑)

そんな中、久々に流れる涙を止められなかったのが、陽だまり保育園の園児、保護者、卒業生総勢130人以上が贈る合唱構成「ぞうれっしゃがやってきた」

戦争中、東山動物園のぞうを殺させずに守った人たちのこと、そして、戦後、生きているぞうを見るために、日本各地の子ども達を乗せた特別列車を走らせるという実話を合唱構成にしたもの。

この作品は、私も子どもの頃、地元の合唱団の子どもの頭数合わせ(笑)に出演した事が何度かあるし、
お世話になった高校の先生が指揮しているのを観に行った事もあるし、その後も何度も聴く機会があり、曲をきけばある程度歌詞が口をつく程度によく知っている。

知ってるけど、正直あまり好きじゃなかった。
だって、子ども心に、合唱団の演技は白々しくて恥ずかしかったし、
声楽的にいい声で歌う人たちに、全然リアリティを感じなかった。
私が聴いて来たどの合唱も、あくまで合唱であって、「物語」になってなかったし、
自分が歌った時にも、どんな物語なのかを、きちんと教えてもらう事はなかった。

しかし、陽だまり保育園の合唱はすごかった。
音楽劇を観ているみたいに、引き込まれる。
プロではないお父さんお母さんのソロの自然な声、実感のこもった歌、セリフ。
大人のコーラスの包み込むようなやわらかさ。お父さんの多さ!(笑)
それに、子ども達の揃わない声のとびっきりの元気さ!
元気なだけじゃなく、しみじみ聴かせる歌も、子どもなりの想いがこもっている。

圧巻なのは、「動物を殺せ!」と鋭く歌う、中盤のシビアなシーン。
舞台に出ている子ども達の顔までこわばり、客席で観ている子どもからは「いやだ〜!!」と泣き叫ぶ声。
そう、歌だってドラマなんだ。舞台に立つ子ども達は、ちゃんと物語を理解して、演じている。ただ歌っているのではなく。

そこにリアルがあるのは何でなんだろう。
それは、厳しい練習なんかじゃなかった。(あとで練習の話を聞いてびっくりした笑)
指揮をする園長先生の踊るような表現力に、子ども達も大人も、心開かれ、
彼女が歌をすごく褒めながら伸ばし、それに応えてまた喜ぶ子達がいる。

そして、日々の保育の中で、
陸前高田への復興支援に園を挙げて毎年でかけたり、
動物を実際に飼っていたり、
親子の行事がたくさんあったり、
生活の中でたくさんの歌を楽しんだりする保育が、そのまんま舞台のリアルになったのだなと思った。

子どもが舞台に立つものはたくさん観てきたけれど、本当にここはすごいな。
出来れば表現に関わるみんなに観てほしい。
彼らを観る度に、私たちはこういう仲間を裏切れない、手を抜けない、子どもへの敬意を忘れない、そしてもっともっと幸せに(な)音楽をやろう、と思うのでした。