1000字劇評:オペラシアターこんにゃく座「森は生きている」

舞台を見終わって劇場から外に出たら、風景が違って見える。そんな舞台はいい舞台だ。

オペラシアターこんにゃく座創立50周年記念「森は生きている」新演出・オーケストラ版を観た。この作品は、演出を変えて上演され続けているこんにゃく座の定番中の定番。私も3回くらい観ている。それを50周年を記念して新しい演出に変えたという。とはいえ、この作品の肝は作曲家林光さんの音楽だから、演出が変わったと言ったって、それほど違いはないのではないかと思っていた。

前回の演出はおとぎ話らしいコケティッシュな出演者たちがとってもキュートだった。それも好きだけれど、今回はもっと大人の芝居。物語が深く腹落ちして感じる。音楽が、今まで以上に「ことば」になっている。
実は冒頭、生オケに合わせての歌声が、どうもこんにゃく座のイメージの分厚さとはちがって薄く甲高く感じる。という若干の違和感は、マスク稽古の影響かもしれないなどと思考を巡らせながら観始めてしまったのだが、もしかしたら冒頭の違和感は、その変化の過程かもしれない。今まで「ずーっと音楽だなあ」というイメージだったのだが、音楽のない無言のシーンも、転換の無音さえ、物語を感じる。

今回、演出家がかけてくれた魔法は、私たち観客が、「森の住人」なのだと感じさせてくれたことだった。おとぎの世界を、自分から遠い世界として眺めるのではなく、物語が随所で、こちらに飛び込んでくる、もしくは物語に包まれる感じ。だから、その世界観にどっぷり浸り、あの森の中に生きることができる。

オーケストラも演奏者がたった10名なのに、すごく鮮やか。丁寧で暖かくて、こんにゃく座の誠実さをそのまま表しているかのようなサウンドだった。

エンディング、テーマ曲をささやくようにアカペラで歌われた時、それまで押し留めていた涙が止まらなくなった。
生の楽器、生の声が、「森は生きている」と客席に語りかける。「生きているもの達の笑う声 話すことば」。現代のこの辛い森に生きる住人の私たちに、生きるものを祝福する歌は、特別に優しく響いた。

確かにこの作品は名作だが、変えないことではなく、変えていくからこそ、その時代時代に寄り添うことができるのだな、と思った。半世紀を経てなお変化の途中にあるこんにゃく座。このコロナ禍で、一時期存続の危機に陥ったとも聞いたが、こういう誠実な舞台こそ、なくすわけにはいかないのだ。

オペラシアターこんにゃく座